そのイヤホンを外させたい

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そのイヤホンを外させたい

文芸を糧に生きるアラサー男子のブログです。

オリジナルの『ガリヴァー旅行記』が強烈過ぎる。

 

小学校の時に岩波少年文庫かなんかで読んで終わりにしていたジョナサン・スウィフト著『ガリヴァー旅行記』。気まぐれで読んでみたら文学的不意打ちを喰らいました。

 

本作品は、レミュエル・ガリヴァーという人物による四篇からなる旅行記という体裁をとっています。

 

有名なのは、小人の国に行く第一篇と巨人の国に行く第二篇、あとはジブリの『天空の城ラピュタ』の元ネタになってるってことくらいでしょうか。

 

その程度の認識しか持たずにオリジナルを読んでみて…大反省です。

 

 

俺はガリヴァーを読んだ気になっていただけだった。

 

 

本物のガリヴァーでは、世の中に裏切られた一人の男が渾身の力で人類に対して毒を吐いています。

 

「腐った臓腑を投げつけられる思いのする」という訳者の中野好夫さんの形容は適当だと思う。読んでいてとっても不愉快だったけれど、その描写の徹底ぶりにぼくは戦慄しました。

 

 

せっかくなので、この気違いじみた旅の概要というか読んでいて個人的に面白かった部分をメモとして残しておきます。↓

 

 

 

 

第一篇 リリパット(小人国)

 

・小人の暮らす国。対立国ブレフスキュとの戦争状態にある。

 

・巨人としてのパフォーマンスを展開して国家的信用を勝ち取ったガリヴァーは戦闘に駆り出される。

 

・戦争の原因は、卵を食べる時にその大きい方の端を割るのか小さい方の端を割るのかという重大問題に関しての意見の決裂による。

 

・この国では、文章は紙の上から下、左から右、下から上に書くのではなく、隅から隅へは斜かいに書く。死人は頭を下にして逆さまに埋める。などの変わった慣習があるものの、総合的に見れば優れた社会制度と言える。

 

・ある日の真夜中、ガリヴァーは皇妃の御座所で発生した大火事を放尿によって消化してみせる。だが、その行為が皇妃の腹心たちの間で憎しみを呼び、敵国ブレフスキュとの密通の疑いと合わせて重罪に問われ、あやうく両眼を潰されかける。

 

*この篇では、スウィフトの筆致はまだまだ良心的と言えるのでファンタジーとして楽しく読めます。

 

第二篇 ブロブディンナグ(大人国)

 

・巨人の国。捕まったガリヴァー愛玩動物として彼らに飼育され、見世物として人気を博すが、過酷な労働によって健康を害してしまう。

 

・それ以上の金儲けは難しいと考えた主人は、娘のグルムダルグリッチ(9才)を世話役につけてガリヴァーを宮廷に売り渡す。

 

・宮廷においてそれまでとは打って変わった幸福な生活を送るガリヴァー。しかし、身体が小さいが故にいつ何時予想外の敵に襲われるかわからず、頻繁に命の危険に遭遇する。(鼠や猫などによる突然の猛襲など)

 

・興味本位で見物に行った死刑執行(巨人の断首刑)がスプラッター過ぎて半マイルも離れているにもかかわらず、思わず飛び上がる。

 

ガリヴァーが国の国王にイギリス国の歴史を話して聞かせたところ、国王は驚愕して、それではまるで陰謀、叛逆、殺戮、虐殺、革命、追放の塊みたいなもので、およそ貪欲、党派心、偽善、不信、残忍、怒、狂気、憎悪、嫉妬、肉欲、害意、野心の生み出す最悪の結果の集積ではないか、と言われる。

 

ガリヴァーの話から国王が判断したイギリス人像は、自然の摂理でこの地球上をのたくり廻っている最も恐るべき、また最も忌まわしい害虫の一種である。というものだった。

 

・巨人の国から無事に母国に帰ったガリヴァーは、小さな家や樹や家畜や人間を見るにつけて、なにかリリパットへでも来たような思いがして、行き会う人ごとに踏みつけてしまいそうな思いがして、たびたび、「どけ!」「どけ!」と怒鳴りつけてしまい、怒った通行人に寸前のところで頭を叩き割られそうになる。

 

*この篇から、スウィフトの描写に何か抜き差しならない怒りの表出がうかがえるようになります。

 

 

第三篇  ラピュタ、バルニバービ、ラグナグ、グラブダブドリッブ、日本

 

ラピュタの人間の頭はみんな左右いずれかへ傾いでおり、眼は片方は内側へもう片方は真上を向いていてかなり気持ち悪い。

 

ラピュタの人間は始終なにか深い思索に熱中していて、他人の話に耳を傾けることができない。だから金に余裕のある人間は「たたき役」を一人常に連れて歩いていて目を覚ますために逐一顔を叩いてもらう。

 

ラピュタの人間は絶えず普通の人間なら歯牙にもかけないような不安に襲われており、朝から晩まで危険の脅威に怯えているので、夜も安眠することができない。朝、人に逢っても第一に訊くのは、「太陽の具合はどうでしょう?」「なんとか今度の彗星の一撃を逃れる見込みはないものでしょうか?」などという現実から逸脱した事柄である。

 

ラピュタの女たちは亭主ではなく、外国人の野蛮な男が好きでその中から愛人を選ぶ。亭主は朝から晩まで思索に没頭しているので、たとえ夫の面前であろうといちゃつくことができる。

 

・バルニバービには企画士と呼ばれる人々を養成する学士院があるが、企画士たちの計画はことごとく失敗するので元々は豊かであったはずの都が今は惨憺たる荒廃の状態である。

 

・グラブダブドリッブにいる人々は一人残らず魔法使いで、酋長は魔法によって、死人の中から誰でも好きな者を呼び出して24時間に限り、命令することができる。その代わり、一度呼び出すと、3ヶ月間は同一人を呼び出すことはできない。

 

ガリヴァーは、酋長に願って魔法で過去の歴史上人物を呼び出してもらう。アレキサンダー大王、ハンニバル、シーザー、ホメロスアリストテレスデカルトなどを召喚してもらい話をする。

 

・ラグナグにはストラルドブラグと呼ばれる不死の人間がいる。永遠に死ぬことのできない彼らの様子を目にしているためラグナグでは長生きしたいという願いは強くないし人々は死を恐れない。

 

*この篇では、本作品が紛うことなき奇書であることを実感できます。18世紀でこの想像力の飛躍は天才的。あとラピュタが酷い書かれよう。

 

第4篇  フウイヌム(馬の国)

 

・フウイヌムでは、馬と人間の立場が完全に逆転しており、人間は「ヤフー」という名前で呼ばれて家畜扱いされている。

 

・ヤフーは見るもおぞましい醜い生物であり、彼らほどその姿を見た人間の心に侮蔑と嫌悪と反感を抱かせる生き物は他にいない。

 

・フウイヌムの国からイギリスに帰ったガリヴァーは、友人たちから「貴様の歩き方はまるで馬じゃないか?」と頻繁に言われるようになったり、人と話をする際にも馬のような声音になるようになったが、それを馬鹿にされても少しも苦にならない。

 

・イギリスに帰ったガリヴァーは、町を闊歩するヤフー共に対する侮蔑と嫌悪で外に出れなくなった。

 

・自分の妻を見るにしても、自分自身がヤフーの一匹と交合して子供を作っていることを考えても、恥辱とも当惑とも恐怖とも、全く名伏し難い気持ちに襲われる。

 

・家に帰った時、妻に抱きつかれてキスされたが、ヤフーに触れられたショックから一時間ばかり気を失ってぶっ倒れた。

 

・帰国したガリヴァーの心が唯一安らぐ場所は、厩であり、馬の香りを嗅ぐと蘇ったような気持ちになった。彼はそこに繋がれた2頭の馬と話をして一日4時間もそこにいるようになった。

 

*真の『ガリヴァー旅行記』はこの第4篇に詰まっています。人類に対する果敢な攻撃、痛罵。ひたすら良い。

 

 

 

というわけで、オリジナルは意外に読まれていないと推測される『ガリヴァー旅行記』の中で個人的にうならされた部分を各篇ごとにラフに書き並べてみました。第4篇の馬の国は、悪の感情が渦巻いていて素晴らしいです。



冒険を終えたガリヴァーは、最終的にキチガイになったんです。知ってましたか?

 

 

さて、読者諸君、これで我輩は、十六年七ヶ月以上にわたる我輩の旅行体験を、ありのままにお話ししたつもりである。しかも我輩は、ただ真実を語るにもっぱらであって、文飾の如きはさして意に介しなかった。むろん世の多くの旅行者たちのように、とうてい真実とは思えない怪異譚を語って諸君を驚かすことも、しようと思えば結構できたであろう。だがそれよりも我輩は、むしろただありのままの事実を、ありのままに語ることにしたのである。というのは、我輩の第一目的は、諸君に事実を伝えることであって、諸君の御機嫌をとり結ぶことではないからだ。

 

 

 

スウィフトよ。あんたは毒舌芸人の一万倍容赦なくやってると思うよ。

 

 

皆様もクソ社会にウンザリしたらぜひ『ガリヴァー旅行記』を手に取ってください。ボルテージ高まりますよ。