そのイヤホンを外させたい

そのイヤホンを外させたい

文芸好き。ラノベやWEB発の作品まで視野に入れつつ、文学または物語の趨勢について考えたことを書いていきます。

ある会話

「そう、カラマーゾフさん、ぼくはほんとうに不幸なんです。ときどき、みんながぼくを笑いものにしている、全世界から笑われているなんて、突拍子もない想像にふけるんです。で、そこで、ぼくはもうそれなら、この世のすべての秩序をぶちこわしてやれっていう気持ちになるんです」
「そうして、まわりの人たちを苦しめるわけですね」アリョーシャはそう言ってにっこり微笑んだ。
「そう、まわりの人たちを苦しめるんです、とくにかあさんをね。カラマーゾフさん、どうです、こういうぼくって、ほんとうに滑稽でしょう?」
「そんなふうに考えてはだめ。そんなふうには、ぜったいに考えないでください!」アリョーシャは叫んだ。「それに、滑稽がなんです? 滑稽な目にあうことなんてざらですし、滑稽に見える人だって、それこそ山ほどいるでしょう? おまけに、能力のあるほとんどすべての人が、滑稽になるのをひどく恐れて、そのためにかえって不幸になっているんですよ。ぼくが驚いているのは、きみがそんなに早くそのことを感じはじめていることなんです。といっても、ぼくはもう前からそれに気づいていましたけどね、きみだけの話じゃなく。今では、ほとんど子どもたちまでが、そういうことで苦しみだしているんですよ。これはほとんど狂気です。このうぬぼれにつけこんで、悪魔がすべての世代にしのびこんでいる、ほかでもない、悪魔がですよ」じっと見つめているコーリャの予感に反して、アリョーシャはにこりともせずそう言い添えた。「きみも、ほかのみんなと同じです」と言って、アリョーシャは締めくくった。「つまり、ほんとうにたくさんの人たちと同じだということです。ただし、ほかのみんなと同じ人間になっちゃだめなんですよ、いいですね」
「みんながそんなふうな人間だとしても、ですか?」
ええ、みんながそんなふうな人間でも、です。あなただけは、それとは別の人になるんですよ。あなたはじっさい、みんなと違う人間なんですから。現にあなたは、恥ずかしがらずに、自分の悪いところや、滑稽なところまで打ち明けたでしょう。いまの時代、だれがそんなことを自覚していますか? だれもいませんよ。それに、自分を批判する必要だって認めなくなってしまっているんですから。みんなと同じ人間になってはだめなんです。たとえ一人きりになっても、きみだけはやっぱりみんなと別の人になるんですよ」 

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

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