そのイヤホンを外させたい

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そのイヤホンを外させたい

文芸を糧に生きるアラサー男子のブログ。

実感としての心地良さー高石宏輔『あなたは、なぜ、つながれないのか』

恋愛工学の創始者の本に続いて、ナンパ界のカリスマの新刊を読んだ。


高石さんらしいしなやかな本である。この本を読んでいる時間や空間そのものがカウンセリングといった感じ。


他者と触れ合うということを根本から問い直し、自分の殻に閉じこもったパターン化されたコミュニケーションからの脱却を提案している。


本のタイトルにもある通り、真に他人とつながった感覚を得るためには、コミュニケーションにおいて敢えて茨の道を選択することが重要になってくるようである。


パターン化された会話は、コミュ障の人間だけではなく、しゃべり上手な人間にも見出すことができる。はたから見てどんなに話が弾んでいようとも、実際のところ中身は空洞で、家でなんとなくテレビを見たり、時間潰しにSNSを眺めたりといったこととやってることは同じだったりする。所詮は埋め合わせに過ぎないのだ。


では、薄っぺらいコミュニケーションの殻を破るにはどうすればいいのか。


それは、他人との触れ合いの中で逐一立ち止まって、自分が普段無意識に繰り返している会話や動作のパターンに自覚的になることである。自分のクセを知ることができれば、それが話し相手におよぼす影響を知ることができ、結果伸び伸びとした会話が可能になる。


《表層的な手段を身につけるのではなく、自分が他人と接しているときにどのようなことを感じ、どのように身体が動いたのかを静かに丁寧に見つめていくと、コミュニケーションの中での所作や言動が改善されていく。
そして、自分を観察し、目の前の相手を観察できるようになったとき、相手よりも早く判断し、動くことができるようになる。》p11


答えは非常にシンプルなのだが、実行に移すのはとても難しい。それができたら話は早いんだけどね、と思う。


そういった読者の緊張を、著者はカウンセラーとして培ってきた知識や引きこもり生活、スカウト、ナンパなどの経験を開陳することで少しずつ解きほぐしていく。


この本が特徴的なのはまさにその点による。


スワイショウや雲手など、本来の身体感覚を取り戻すためのいくつかのトレーニングの他は、会話に関する具体的なテクニックなどはほとんど書かれていない。わざとそうしたんじゃないかと思う。


少し冗長に感じてしまうほど、著者の実感のようなものが繰り返し述べられている。そのためか、恋愛マニュアル本やハウツー本にはない「頼もしさ」のようなものがある。それは、たぶん著者がこれまで出会ってきた人々の総体としての印象であり頼もしさなのだろう。少なくとも恋愛工学などに見られるような無慈悲なアルゴリズムはそこにはない。


高石さんはプルーストが好きみたいで、この本の中にも『失われた時を求めて』からの引用があるが、かなり意識した部分があったんじゃないかなぁ。一読しただけでは何だったのか容易に説明できないようになっている。


うまく言えないが、非常に自由度のある内容だと思う。面白かった。


《会話は他人とのずれを感じて苦々しい思いを味わうものでもなく、コミュニケーションの技術はその苦々しさをできる限り回避するためのものでもない。思い浮かんだことをいかに自由に、丁寧に伝えていくか。また相手のそれをどれだけ受け止められるのか、それを楽しむことが会話である。》p23