そのイヤホンを外させたい

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文芸好き。ラノベやWEB発の作品まで視野に入れつつ、文学または物語の趨勢について考えたことを書いていきます。

『ロビンソン・クルーソー』に学ぶ悩み克服法

誰にでも悩みの一つや二つはありますよね。友達や恋人とお酒でも飲みに行って洗いざらいしゃべってしまえば気が済んでしまう軽いものもあれば、自分の中に抱えこんでしまい、いつも頭から離れないような深刻なものもあったりします。


後者のような厄介な悩みとうまく付き合っていくために何か良い方法はないのでしょうか?


おれは、悩みがあるときは一度紙に全て書き出して現状を整理するようにしています。これ、手間は掛かるけれど効果バツグンの方法です。


イギリスの作家ダニエル・デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』を子供の頃に読んだ人は多いのではないでしょうか。おれはこの小説が昔から大好きで、数年に一度は読み返し生きるヒントを得ています。一人きりでいるってホント素晴らしいですよね〜。大人も読んで楽しめる名作です。

ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)

ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)


乗っていた船が嵐で難破し孤島に流れ着いたクルーソー。島にいる人間が自分一人だと知って、彼は悲しみに打ちひしがれます。雨露をしのげる住居を探したり、食料を確保したりという仕事を坦々とこなすものの、未来に対する不安と恐怖は膨らむばかり。人間一人でいると考えなくてもいいことまで考えてしまうので無理もありません。


そこで、クルーソーはそれ以上落ちこまないために自身の置かれている状況の「良いこと」と「悪いこと」を並べて書き出す作業をします。少し長めですが引用してみます。

悪いこと
私は救出される望みもなく、この絶島に漂着した。

良いこと
しかし私は生きていて、船の他の乗組員は全部溺死した。


悪いこと
私は言わば、世界に住んでいる人間の中から選り抜かれて、ただ一人隔離され、惨めな思いをして暮らさなければならない。

良いこと
しかし私は同様に、船の乗組員全部の中から選り抜かれ死を免れ、私をそのように奇跡的に助けて下さった神は、私を現在の状況からもお救いになることがおできになる。


悪いこと
私は人類から引き離され、この島で全く孤独に生活しなければならない。

良いこと
しかし私は食糧がない、不毛な地で餓死することになったのではない。


悪いこと
私は体を蔽う着物さえもない。

良いこと
しかし私がいる所は熱帯で、着物などはほとんどいらない。


悪いこと
私は人間や野獣に対して自分を守る術がない。

良いこと
しかし私が漂着したのは、アフリカの海岸で見たような猛獣は住んでいないらしい島で、もしこれがあのアフリカの海岸だったならば私はどうなっただろうか。


悪いこと
私には、私と口を利いたり、私を慰めてくれたりする仲間が一人もいない。

良いこと
しかし神は船を海岸に非常に近く寄せて下さった。そのために私は多くの必要品を手に入れることができて、それで足りない時はそれを用いて不足を補い、一生暮らすのに困らない。


とにかく私はこれによって、どんなに惨めな境遇でも、何かそこに積極的な、あるいは消極的な面で、有難く思っていいことがあるという事実を明らかにすることができた。そして私自身が経験したような、最悪の境遇でも、そこに何か我々を慰めてくれて、良いことと悪いこととの貸借表の中で、貸方の方に記入すべきものが必ず見出せるのである。

吉田健一訳『ロビンソン漂流記』(新潮文庫)p75〜p77



このようにして、クルーソーは突如放りこまれた過酷な環境を受け入れ順応するために島での生活をより良くするための努力を開始するのです。正に近代人の鏡と言っていい立派な心構えです。


いかなる状況においても人間は心の持ち方次第で地獄を天国に変えることができます。そもそも、この世で起こることには「良い」も「悪い」もありません。目の前の事柄に意味を付け加えるのは、他の誰でもない自分自身です。


情報が錯綜する現代社会の中で心を疲れせないように、われわれは一度精神的に難破して、孤島のロビンソン・クルーソーのようにまっさらな気持ちで目の前の事象に向き合ってみるべきではないでしょうか。