そのイヤホンを外させたい

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そのイヤホンを外させたい

文芸を糧に生きるアラサー男子のブログ。

古さを感じさせない時間術の名著/アーノルド・ベネット『自分の時間』

自分の時間 (単行本)

自分の時間 (単行本)



アーノルド・ベネット『自分の時間』を読みました。


100年以上前にイギリスで出版された時間術の本で、著者は英文学史に名を残す小説家アーノルド・ベネット。


このたび装いを新たに再刊されたとのことで、書店の自己啓発本の棚のなか、違和感なく他の本と肩を並べています。


文芸というふわふわしたものが好きな人間としては、生き方のコツについても経営者やスポーツ選手の書いたものではなく、小説家の書いたものから学びたかったりします。本書を手に取ったのもそんな浮ついた理由からなのですが、実際に読み終えてみて、思ったより真面目に自己啓発をやっていたので少し驚きました。でも、結果的には読んで良かった。そこはさすが小説家。目に見える形での自己実現のみならず、自分の内面の基準に背くことなく充実した人生を送るための具体的なアドバイスが親切に書かれています。

最も多産な、しかも最も質の高いものを書きつづけた作家が、コーヒーなどを飲みながら、気安くそのやり方を語っているといった感じがある。


訳者の渡部昇一(『知的生活の方法』の人だ!笑)は解説のなかで本書の印象をこのように述べています。
僕も本書を読んで同じことを感じました。ページを繰っていると、静かに机に向かって文章を綴っている著者の姿を活字の向こうに思い浮かべることができる。
100年以上残る本というのは、やはり独自の品格があるものです。


1日の中に自分のために使う別の1日を設定する

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充実した完全な1日を送りたいと思ったら、頭の中で、1日の中にもうひとつ別の1日を設けるようにしなければならない。 p59


これが、本書で語られる時間術の大前提となる考え方です。ベネットの時間術は24時間のうち、労働の時間(8~9時間)には重きを置かず、仕事から解放される夜から次の日の朝にかけての時間を有意義に活用することを目指しています。


僕は現在会社員として労働力を売っていますが、たとえ仕事を一生懸命がんばったとしても出世や収入アップには直結しない環境に身を置いています。いわゆる名ばかりの正社員というやつです。元気なうちはまだいいけれど、何の打開策も講じずに毎日をテキトーにやり過ごしていたら、きっとどこかの段階で限界がくるだろうことは、まぁ薄々想像がつくわけです。だからそうならないためにも、プライベートの時間を有効活用して資本主義社会の中で評価される自分の価値を生み出し、さらに磨いていく必要があると今は考えています。


その意味で、本書の推奨する時間術は僕のニーズを満たしており、痒いところに手の届く内容でした。


労働時間以外の15時間を使い倒す


1日の内3分の1の時間を労働に奪われるなら、残りの3分の2で自分にとっての本当の人生の仕事に打ち込めばいいとベネットは言います。
会社員は平均で朝8~9時頃から夜の18時~19時くらいまで会社に拘束されるので(もちろん残業がないとして)、翌日再び会社に足を運ぶまでに大体15時間ほど自由な時間が残されています。それも毎日! 8時間を睡眠に使ったとしても7時間残るのでそこから食事や入浴などの時間を差し引いても、4時間ほどは手つかずで残るでしょう。どうですか? 意外に時間って余るもんでしょ。実際にはこの計算通りにいかない日も多いかと思いますが、帰宅して夕食べたら「あ~今日も終わった」と言って寝るまでの時間をダラダラ過ごすのと、会社の建物から出た瞬間に本来の1日が始まるという意識を持ち、就寝までの時間を無駄にせずに過ごすのとでは、長い目で見た場合大きな違いを生むことは明らかです。


さらに、自由な時間の中での生産性を高めたいなら、早起きすることが一番だとベネットは書いています。脳が疲れていない朝の1時間は夜の2時間に匹敵するのです。
僕自身、夜の時間はこうしてブログの文章を書いたり、本を読んだりして過ごしていますが、朝の時間は何かしらの勉強に当てるようにしています。疲れた状態の頭では思うように進まなかった問題に、朝全快した頭で再度挑戦してみるとすんなり解けてしまうことは往々にしてあります。朝の脳みそというのは、わたしたちが考えている以上に戦闘力が高いのです。


読書を役立てたいなら詩を読め


「効果的な読書」について書かれた章についても一言触れておきます。
読書で利益を得たいならば、何よりもまず詩を読むべきだとベネットは言うのです。逆張りだなぁ。笑

詩は最も崇高な喜びを与えてくれると同時に、最も深い知識を授けてくれる。要するに、詩にまさるものはないということだ。ところが、残念なことに、大多数の人は詩を読まない。
p130


ちまたに溢れる意識高めな本にはまず書かれていないであろうアドバイスだったので、意表を突かれたと同時に、普段から小説、詩、哲学など、実社会では無用とされてる書物ばかり読んでる身として少し勇気づけられました。


最後に、本書の中で一番グッときた一節を引用して終わります。

バランスのとれた賢明な1日を過ごせるかどうかは、ふだんとは違う時間に、たった一杯のお茶を飲めるかどうかにかかっているかもしれないのだ。 p24