そのイヤホンを外させたい

そのイヤホンを外させたい

文芸好き。ラノベやWEB発の作品まで視野に入れつつ、文学または物語の趨勢について考えたことを書いていきます。

【感想】『響~小説家になる方法~』4巻

響~小説家になる方法~ 4 (ビッグコミックス)

響~小説家になる方法~ 4 (ビッグコミックス)



前にレビューを書いた漫画作品『響~小説家になる方法~』の4巻を読みました。


買うのが遅れたのは、『スペリオール』誌上で7割くらい既に読んでいたため。


1巻~3巻までのレビュー↓


目次


ストーリーのあらましと雑感


さて、4巻ですが処女作『お伽の庭』で文芸誌『木蓮』新人賞を受賞し、ついに小説家デビューを果たした響の様子が描かれます。


前半は、響と同じく新人賞を受賞した田中康平という新たな登場人物の視点で話が展開します。


この田中という青年(と言っても28歳)、実社会と相容れない典型的な作家志望って感じでとてもチャーミングなのですが、授賞式の控室にゴスロリファッションで現れた響を「話題作りのための新人」と勘違いし舐め切った態度を取ったため、式の本番中にこっぴどい仕返しをされます。


型破りな新人としての響のカリスマ性がいかんなく発揮されていますね。田中も純文作家としての野心と自負心は人並み以上に持ち合わせているのに、響の存在感が強すぎてどうしても見劣りしてしまう。現実の文学賞でもこういうことって少なからずあるのかもしれない。最終的には実力がもの言う世界とは言え、タイミングって大事だよなぁ。


後半は、響とほぼ同時期に処女作を出版する運びとなった祖父江凛夏のデビューに対する不安とためらいが中心。日本を代表する小説家祖父江秋人を実の父に持ち、なおかつ響という天才を目の前にしてセルフイメージだだ下がりの凛夏ちゃん。プレッシャーもあってか響曰く「つまらない」小説を書き上げデビューすることに。それでも、有名小説家を父に持つ彼女の小説は話題性のみで売れてしまう。さらに追い打ちをかけるように響の『お伽の庭』が芥川賞直木賞両方の候補作に選ばれたことを知り……っていうところでこの巻は終わります。続きめちゃ気になる。

“葛藤”の行方


僕が大学の頃お世話になった先生は、「文学は、それがどのような形式であれ例外なく個人の“葛藤”を描くものだ」とよく言っていました。


僕は、それを聞いて分からなくもないけどちょっと古くさい文学観だなぁなんて内心思っていました。当時は、『文学賞メッタ斬り!』シリーズなんかに影響されて自分は小説読めると自惚れていたから。


でも、学校を卒業して日々の仕事に忙殺されるようになって先生の言葉にだんだんと重みが出てきたんです。自分の中に消えることのない“葛藤”が常にあって、いつの間にかそれを代弁してくれるような言葉やイメージを求めるようになっていた。


その“葛藤”の正体は何なのかというと、言葉で表現するのが難しいのだけど(だから小説を読む)、たぶん、いつもそこにある齟齬のようなものであると思う。少なくとも、20代後半からの自分はそのような齟齬に対するいくらかの(全部とは言わない)回答を求めて本を読んでいる気がするのです。


本作を読んでいて、作家でもない僕が登場人物それぞれの言動にいちいち共感してしまうのは、自分にしか分かり得ないだろうと勝手に思いこんでいた齟齬が拍子抜けするほどコミカルで魅力的に描かれているからだ。本の帯に書かれている「ギクシャク」というのは、言いえて妙です。

芥川賞直木賞候補作同時ノミネートの結果はいかに


両賞の候補に同時ノミネートされた『お伽の庭』ですが、今後どんな形で決着が着くのでしょうね。


2つ同時に候補にあがるというのは現実にも昔あったみたいですが、やはり受賞にまでは至っていないようです。


そもそも、2つの賞を両方取った作家がまずいません。なぜなら、芥川賞直木賞は両方とも新人もしくは中堅作家を対象にした賞なので、どちらか一方を取った時点でもう一つの候補には上がらなくなるそうです。


だから、2つとも取るなら同時に候補にあがって同時に受賞するしかないわけですね。作者さん考えてるなぁ。


次巻の発売を期待して待つことにします。


ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー (幻冬舎文庫)

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー (幻冬舎文庫)

パーク・ライフ (文春文庫)

パーク・ライフ (文春文庫)