そのイヤホンを外させたい

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文芸好き。ラノベやWEB発の作品まで視野に入れつつ、文学または物語の趨勢について考えたことを書いていきます。

幸福の指標をめぐる戦い/漫画『プラチナエンド』

電通の女性新入社員過労自殺に関するニュースが世間を騒がせた。


いや、正確にはネットを騒がせた。
電通の強力な影響下にあるテレビは、本件について極力報道を控えている。


客観的に見て、たかが会社のことで自身の生命を断つ決断をし、なおかつ実行に移してしまうのは愚かだ。だが、当人の立場からすれば、それしか選択肢がないギリギリの地点まで追い込まれてしまっていたわけだから、安全な地点から彼女のメンタルの弱さと視野の狭さを糾弾してもあまり意味がないように思う。問題とすべきなのは、何が彼女をそこまで追い詰めたか、ということだ。

人は誰しも幸せになるために生まれ
人は誰しもより幸せになるために生きている


漫画『プラチナエンド』は、このような格言から始まる。




プラチナエンド』は、人生に絶望し自殺を図った青年が、ギリギリのところで守護天使に命を救われ、天使から授かった「翼」と「矢」というアイテムを駆使して真の幸福を目指す物語だ。


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主人公の架橋明日(カケハシミライ)は、どこにでもある「普通の幸せ」を望んでいるが、特級天使ナッセによって「翼」と「矢」を与えられたことから、13人いる「神候補」の1人に認定されてしまう。


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「神候補」の中には、「翼」と「矢」の力を悪用して他の候補の抹殺を目論むメトロポリマンがおり、架橋明日は否応なく、神の座をめぐる戦いに巻き込まれることになる。


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始めのうちは及び腰だった架橋未来だっだが、自分と180度思考パターン、行動パターンの異なるメトロポリマンのやり方を目の当たりにして、遂に戦いを決意する。


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本作は、作者である大場つぐみ×小畑健の代表作『DEATH NOTE』の設定をひっくり返したような物語である。


DEATH NOTE』は死神に憑かれたダークヒーローの話で、本作は天使に憑かれたヒーローの話だ。


DEATH NOTE』の夜神月(ヤガミライト)が、本作のメトロポリマンなら、L(エル)は架橋未来である。


しかし、だからと言って、両作品の主人公を「闇」と「光」という対極の属性を体現する人物としてはっきりと区別することはできない。


作者は、死神や天使をくっきりと色分けされた善と悪として描いているわけではない。言ってみれば、彼らは単なる傍観者でしかなく、実際に思考し行動するのは彼らに憑かれた人間自身である。


だからこそ、そこに少年漫画的な葛藤が生まれる。
それは、『DEATH NOTE』で言えば「正義ってなんだろう?」であり、『プラチナエンド』で言えば「幸福ってなんだろう?」という根源的な問いにつながる。


このようなピュアな問いかけは、作者の作品に共通するテーマだ。


夜神月は自身の信じる正義に対してピュアであり続けたし、
架橋明日もまた死んだ両親に教えられた幸福像を理想としている。
前作『バクマン』についても同様で、真城最高(サイコー)と高木秋人(シュージン)は、ジャンプの漫画家になってアンケート1位取るという夢に対して愚直であり続けた。
時にそのピュアネスは、彼らを苦境に追いやるにも関わらず、だ。


人は誰しも幸せになるために生まれ、今日を生きている。


そのはずだ。
僕もそう思いたい。
植物のようにただそこに存在し呼吸するだけの人生なんてまっぴらごめんだ。
それは、程度の差こそあれみんな同じだろう。


しかし、人は既成の概念にとらわれるあまり、自分でも気づかぬうちに幸福とは反対の方向に舵を切ってしまうことがある。世間が作った偽物の幸福像に翻弄されて、自分の心と体が悲鳴をあげているのに構わず、破滅に向かって突き進んでしまうのだ。


社会の中で暮らし飯を食べるためには、自分の所属する組織のルールや周りの空気にある程度同調することは必要だ。だが、人はそれだけでは幸せになれない。


なぜなら、幸福は他人が用意してくれるものではなく、自分で考え行動してその結果手に入れるものだからだ。天使がくれたアイテムの使い道を決めるのは自分自身である。


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社会的な立場や評価とは別のところで幸福の指標を定めよう。
それさえしっかりしていれば、たとえ他人に後ろ指をさされても平気で笑っていられるはずだ。