わたしたちの住む街には得体の知れない何かが潜んでいる/乙一『GOTH』
エッジの効いた短編小説が読みたいなぁと思った。
手に取ったのは、乙一の『GOTH』。
- 作者: 乙一
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/06/25
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1冊に3話ずつで全6編。
何だか懐かしい感じがしたが、最初の「暗黒系」以外はこれが初読。
小説執筆の第一歩として、乙一の作品群を参考にするワナビーは多いのではないかと思う。
実際、乙一は上記「暗黒系」の執筆プロセスを小説ハウツー本の中で公開している。
その影響もあってか、自分のように「暗黒系」だけ読んで済ませてしまう人も少なからずいるのではと想像します。
もったいない。
他の作品も読んで損はないです。
「夜の章」と「僕の章」全6作品を通して読んで、「これ、青春小説だな」って思った。
本作の語り手である「僕」は、正常な感覚を持った人間ではなく、どちらかというと彼が接触する猟奇殺人犯たちに近い存在として描かれている。ヒロイン役である森野夜も「僕」ほどではないにせよ、人間の暗黒面を好む傾向がある。本来なら、彼らのようなギークに普通の読者が感情移入することは困難だ。
にも関わらず、実際に読んでみると抵抗なく「僕」と同じ視野を持てるので不思議に感じるだろう。
なぜそのようなことが起こるのかを考えるに、おそらく、『GOTH』には自分たちの住む街には得体の知れない何かが潜んでいるかもしれない、という青春期の危機感のようなものが作品の背後にあって、それは読者にとっても馴染みのある感覚だったからではないか。
自分は、本作を読んでいて荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』を思い出した。
杜王町に潜むシリアルキラー吉良吉影と『GOTH』に登場する殺人鬼たちが重なる。現に「リフトカット事件」には、人間の手の収集を好む犯人が登場する。
作者は、後年ジョジョのノベライズでも第4部を選んでいる。このことから見ても、少なからぬ影響を受けていたことは間違いないだろうと思う。
The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day (集英社文庫)
- 作者: 乙一,荒木飛呂彦
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乙一作品は叙述トリックにこだわり過ぎて小説として軽いと批判されがちだけど、今回読んでみて、ラノベっぽい類型化された人物設計とは裏腹に、“青春と自傷”とでも呼べそうなあの頃の不穏な感情が呼び起こされました。
それでは。