ALL REVIEWS(オール・レビューズ)は出版流通に変化をもたらすか
フランス文学者の鹿島茂さんが、先月ALL REVIEWS(オール・レビューズ)という書評無料閲覧サイトを立ち上げた。
今月からさらに書評家の数を増やすということで、これは個人的にめちゃくちゃ良い試みだと思っている。
ほとんどの書店の棚には文脈がない
個人でやっている一部の店を除けば、ほとんどの書店は取次からの配本に依存している。棚の担当者の創意工夫によって陳列の仕方に弱冠の違いはあるものの、基本的には毎日送られてくる新刊本を最も目立つ場所に配置し、売れ残った古い商品は順次返品するというのが一般的だ。
自然、どこの書店の棚も同じような品揃えになり、在庫数の多い大型書店はともかく郊外に点在する中型書店は長らく続く出版不況の影響をもろに受けて次々と閉店していっている。
何ら個性のない中型書店の経営が瀕死の状態であることは、一消費者である自分でもなんとなく分かる。
まず店内の棚を眺めていても全くワクワクしないのだ。平置きされているのはどこかで見たようなタイトルの自己啓発本や健康本ばかりで、その類の商品が店の在庫の半数以上を占めているため自分がほしいと思っている既刊本の大半は取り寄せになってしまう。それならAmazonで買った方が楽だし早い。
商品のラインナップもどこか空疎だ。昨今よく見かける「まんがで分かる○○」という商品が置いてあっても、元ネタの本である○○は店にはない。これは非常に奇妙な事態であると僕は思う。また、時代に逆行して岩波文庫を置いている店も決して少なくないが、全く売れず棚にささったまま背表紙が変色しているものもある。
もし、本を置く棚にも文脈のようなものがあるとすれば、今のほとんどの書店の棚にはそれが欠けていると言ってもいいと思う。
ほしいのはベストセラーよりもロングセラー
数年前、零細出版社の営業部員として働いていた時、社長と顔を合わせるたびに口を酸っぱくして言われたのが、「新刊本は売れて当たり前。営業部の課題は会社の倉庫に眠っている在庫をいかに減らすか」ということだった。
雑誌に顕著だが、新刊本の賞味期限は短い。一時的に売り上げがあっても波が去ってしまえば出版社はまた似たような商品を出して延命するしかない。出版社が自転車操業の悪循環から抜け出すには、長期にわたって会社に利益をもたらしてくれるロングセラー商品を一つでも多く持つことにある。それさえできれば、矢継ぎ早に新刊本を出す無理をすることなく文化的水準を保つことができる。まぁ、業界の人はみんな分かってることで、これがすごく難しいんだよね。
過去にスポットライトを向けること
書店と出版社どちらにも言えることは、「過去にスポットライトを向ける」ことが今まで以上に重要になってきたのではないかということだ。
新刊本を棚に並べれば本が売れる時代は終わり、本の作り手、売り手共に自分たちの扱う商品の価値を読み手に分かりやすく提示することが必要不可欠になってきた。
そういった意味で、ALL REVIEWS(オール・レビューズ)のような試みは今後ますます関心を集めるのではないだろうか。