上田秋成『雨月物語』の感想
- 作者: 後藤明生
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2002/07
- メディア: 文庫
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子供の頃、実家の祖母が亡くなったすぐ後に生前から祖母と親しくしていた親戚のおばさんが、夜更け家族が寝静まったあと寝室に隣接する木の廊下を誰かがゆっくりギシギシと歩く音がする、きっと亡くなった祖母に違いない、という話を祖父にしていた。
今となっては眉唾な話だなぁと思わなくもないけれど、とにもかくにも、自分にとって『雨月物語』というタイトルが持つイメージはそういった原初的な恐怖と密接に結びついていた。
だがいざ作品を読んでみると、そこには確かな理性の光があり、作者上田秋成の意図が前面に押し出されているように感じられた。
作品中に描かれる怪奇的な出来事は、登場人物の世界に対する執着、怨念のようなものを原動力として起こるわけだが、その背後には作者上田秋成の閉鎖的な封建社会に対する嫌悪と反発の感情がある。
解説によれば、秋成は自身の物語論の中で物語を「いたづら言」、「あだごと」と定義し、それがつまらないもの、無意味なことであるがゆえに作者の意図、現実に対する批判を注ぎ込むことができるという考えを展開したらしい。
自分にとって、上記のような作者の意図によって『雨月物語』が執筆されたという事実はまず純粋な驚きだった。
怪異譚としての魅力もさることながら、切れ味の鋭い社会批判にもなっている。想像と現実、対極に位置する二つのものをその拮抗状態を維持しながら一つの作品の中に共存させている秋成の手腕に物語作家としての理想の姿を見た思いがした。