そのイヤホンを外させたい

言葉の短剣。ラ・ロシュフコー公爵の黒光りした箴言から世間を学ぶ。

16世紀~18世紀のフランスにはモラリストと呼ばれる文学者が登場し、人間の生き方についての考察を自由な文章形式でまとめました。

そんなモラリストの中に、ラ・ロシュフコー公爵がいます。自分は彼の『箴言集』が好きです。なぜなら、彼の箴言はとても的を射ていて実用的だから。

f:id:taiwahen:20170114111753j:plain

ラ・ロシュフコーは名門貴族の生まれで、戦争に行ったり社交界に出入りしたりと華麗なる人生を送った人です。

社会的にはいわゆる「勝ち組」であったはずのラ・ロシュフコーですが、本の中ではかなり屈折した人間観、人生観を表明しています。

恋と革命がリアルに存在した時代の貴族はある程度のしたたかさを備えていないと上流社会で生き残れなかったのかもしれません。

ラ・ロシュフコー箴言集』には、言葉の短剣とでも形容できそうな彼のブラックな箴言が載っています。

ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫 赤510-1)

ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫 赤510-1)


もしラ・ロシュフコーが現代に生きてたら、きっとTwitterをやって人気を集めていたと思います。それくらい彼の箴言は現在に相通じるものがある。


というわけで、いくつかご紹介。


われわれの美徳は、ほとんどの場合、偽装した悪徳に過ぎない。 p11


本書の冒頭にある代表的な箴言
これは、ラ・ロシュフコーの思想の根っこにある人間理解ですね。
虚飾の世界で生きた彼は社交界に出入りする人間たちのインチキが誰よりもよく見える立場にいました。だからこそ、読んだ人の心を揺さぶる鋭い言葉を紡ぎ出すことができたのでしょう。


人は決して自分で思うほど幸福でも不幸でもない。p24


人間の幸福度なんて主観でどうとでも変わることをわたしたちは知っています。
自分の脳内では絶対絶命だと感じることも他人からしたら些細なことであることもしばしば。逆もまたしかりです。ピンチの際には、切り口を変えて自分を客観的に見つめる習慣を持っていたい。


年寄りは、悪い手本を示すことができなくなった腹いせに、良い教訓を垂れたがる。p36


「昔は俺も色々やったよ」なんて飲み屋で喋ってる中年は、それにも飽きると今度は聖人君子のようなことを言い出したりします。
そのへんの年寄りのアドバイスなんて質の悪い自己啓発本以下と相場は決まっているのですから、自分と相手の時間を無駄にしないためにも適度な距離を置きましょう。


頭のいい馬鹿ほどはた迷惑な馬鹿はいない。 p128

ひとしきりしか歌われないはやり唄にそっくりの輩がいる。 p66


ネットには頭の良いバカというのが一定数生息していて、リアルで失った何かを懸命に取り戻そうとしています。

彼らのその努力が報われることは多々あります。しかし、どれも例外なく一瞬の出来事なので、まるで一発屋の歌手やお笑い芸人のようにいつの間にか話題に上ることもなくなるのです。


恋においては、ほとんど常に、騙しの手管のほうが警戒心より一枚上手である。 p100


SNSでは、男と女が飽きもせず不毛なバトルを繰り返しています。恋愛においては先に好きになった方が負けだなんて好戦的な意見もあったり。

正直、勝ち負けとかどうでもいいなと感じる人は多いと想像しますが、それでも戦争がなくならないように、人類が滅亡するまで男女の争いは続くでしょう。人が遺伝子の乗り物である限り。


世間の付き合いでは、われわれは長所よりも短所によって人に気に入られることが多い。p35


これは完璧主義な人ほど見逃しがちな真理です。ダメな自分でもそこに何かしら他人の心を打つものがあれば共感を呼び、短所は長所に変わります。特にネットではこの傾向が顕著です。自虐に走るのは精神衛生上良くありませんが、今の時代自分の欠点を正直に語ってみることは時には必要です。


われわれは、どちらかといえば、幸福になるためよりも幸福だと人に思わせるために、四苦八苦しているのである。 p185

われわれはあまりにも他人の目に自分を偽装することに慣れきって、ついには自分自身にも自分を偽装するに至るのである。p42


あなたは自分の欲しいものがちゃんと見えてますか? ネットの情報をシャワーのように浴び続けているといつの間にか他人の価値観に振り回され、自分の尺度が見失う事態に陥りがちです。

自分が本当にやりたいことはネットを切らないと分からない。
常に他人とつながりながらも、その言葉を肝に銘じておきましょう。


人生には時として、少々狂気にならなければ切り抜けられない事態が起こる。 p95


ここに来てちゃぶ台をひっくり返すようで恐縮ですが、人生教訓だけ頭に詰め込んでもダメです。
なぜなら、運命のいたずらによってしばしば理性の力では乗り越えることが不可能な事態に直面することもあり得るのです。

一般的に、狂気は悪いイメージで受け取られることが多いです。でも見方を変えれば、それは無意識から湧き出る強いセンスの発露であり、現在の自分以上の力で困難な状況を打破するための強壮剤になり得ます。

僕自身の経験上、しっかりと組み立てられた生活のタクティクスの中に、ほんの少しの狂気を持ち合わせている人はとても魅力的に映ります。


ラ・ロシュフコー箴言集』は、本物と偽物が錯綜する世の中で、自分の軸を作るための確かな「ものさし」になってくれる1冊です。
有名人のTwitterを覗くような感覚で気軽に手に取ってみてください。