そのイヤホンを外させたい

【感想】窪美澄『ふがいない僕は空を見た』

 

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

 

  窪美澄ふがいない僕は空を見た』を読んだ。

 第8回 女による女のためのR-18文学賞大賞受賞の短編『ミクマリ』を含む5つの連作短編集である。

 賞の性質に沿って性を前面に押し出した内容ではあるが、官能小説のようなセックスへの耽溺を露骨に描くのではなく、子供から大人までそれぞれの語り手が自身と切っても切り離せない「付属物としての性」をもてあます様子が多角的に描かれている。

 近年女性が書く性愛小説が多く刊行され1つのジャンルとして成立しつつある。R18文学賞はその先駆けだといっていい。

 僕は個人的にそういった風潮はありだと思っている。しかし、もともと性愛小説というのはかなり保守的なジャンルでもあって誰が書いても似通った内容になりがちである。特に書き手が女性だとどうしても耽美に傾くきらいがある。

 その点、この小説の作者は性に対してフェアな視線を全編を通じて保ち得ていると感じた。語り手それぞれの年齢や立場に合わせた飾らない言葉で性の本質に迫ろうとする姿勢に好感を持った。

 タナダユキ監督による実写映画も良かった。他作品も読むかもしれません。