そのイヤホンを外させたい

【感想】第157回芥川賞受賞『影裏』

芥川賞を取った沼田真佑『影裏』を読んだので感想。

影裏 第157回芥川賞受賞

影裏 第157回芥川賞受賞


受賞会見での「ジーンズを1本しか持ってないのにベストジーニスト賞をもらった気持ち」という謙虚なコメントが話題になっていたが、「デビュー作にはその作家の全てが詰まっている」という考え方も一方ではあると思うので、個人的には作家のデビュー作がもっと候補になっていいし、審査員はもったいぶらずに推すべきだと思う。


『影裏』を芥川賞受賞作というレッテルを外して、あくまでも作家のデビュー作として眺めた時、今後の作品につながる萌芽としてどのような特徴がうかがえるか。


・311の震災
LGBT


強いて挙げるなら、この2つが本作の主題ということになる。


しかし、中途半端だよね。僕はこれらをわりとどうでもいい感じで読んだ。この作者が上の2つの主題を今後の作品でより掘り下げていくようには到底思えない。


おそらく、当初作者には書くことが何もなかったのではないか。だから、自分の周辺の使えそうな要素を混ぜ合わせて一つの作品として完成させた。


この作品の魅力は、古風な文体と、川釣りのシーンに見られるような風景描写のうまさ、そして、その一見なんでもない物や風景から全く別の情景や記憶を派生させる作者の感受性のあり方にあると言えると思う。


淡白で芸のない感想になってしまったが、今の自分に言えるのはこんなところ。「文藝春秋」に載る各審査員の選評が楽しみだ。